「教会だより」の巻頭言 12月号

 

環境芸術の森 唐津市

二つの星

カトリック唐津教会 主任司祭 江夏國彦

 クリスマスの月になりました。クリスマスツリーには大小さまざまな星が飾れますが、とくに新月になると唐津の夜空にも沢山の星が見られます。星を見るたびに、二つの星のことを思い巡らされます。

 4年前の10月に亡くなったカトリック信徒の緒方貞子さんが一つ目の星です。92歳の天寿を全うされるまで人類愛を貫かれた方でした。国連難民高等弁務官として30年近く働かれ、世界の各地で起きた紛争のため難民となった人々を小さな体で精力的に、献身的にお世話しました。治安の悪い難民キャンプでは防弾チョッキを身に着けて支援に当たられ、国連を通して多くの命を救ったのです。現地の人々に「日本のマザー・テレサ」として慕われていたとのことです。

 もう一つの星は、同じ年のクリスマスが近づいた12月に凶弾に倒れた中村 哲 医師です。享年73才。度重なる紛争で荒れ果て、貧困と病に苦しむアフガニスタンの復興のために30年以上尽くされました。医療活動や肥沃な農地を作るための灌漑工事によって60万人以上の命を救った偉大な人でした。幼少のころ北九州市若松区で育ち、九州大学を出て医者になられたプロテスタントのキリスト者でした。

 4年前、私は若松教会と戸畑教会で働いていました。すぐ近くの若松区にある高塔山の展望台へしばしば散歩しました。中村医師が亡くなった日も同じ所を散歩して帰宅後、テレビのニュースで訃報を知りました。驚いたことに、氏の功績を伝えるテレビの映像の中で、亡くなる数年前に休暇で氏が日本に帰国した時、高塔山の展望台を訪れた映像が流れたのです。その時、思いました。このような偉大な方が現代を生きる私たちの国の、しかも若松で育った方だと知って感激しました。そして、映像の中の氏は、どんな思いで、展望台から見える景色を見ていたのだろうと思いました。きっと、子供のころ過ごした地はようやく平和を取り戻し、戦後の日本の産業復興を遂げてゆく姿と育ててくれた家族、町、友人、恩師など思い巡らして懐かしんでいたのではないでしょうか。

 「友のために自分の命を捨てること、これ以上大きな愛はない。」とイエスは言われました。生涯を人々のために尽くされた二人の偉人は、今日も二つの星として世界に、宇宙に輝いています。

 終わりが見えない二つの戦争が今も続いています。そして毎日命が奪われています。多くの人々が傷つき、避難民となって苦しんでいます。一日も早く外交努力によって争いが終わり、平和が訪れますように祈りましょう。

 そして世界の人々が、幼子となられた救い主を拝むことができますように。